大江戸ロミオ&ジュリエット
志鶴は寝かされていた布団から身を起こして、一礼した。
「玄丞先生、たいへん申し訳ありませぬが、此度のことは何卒、松波の家には御内密にしてもらえませぬか」
志代が信じられぬ面持ちで、
「志鶴、なにを云うておる。男であらば松波様の嫡男になるというのに、なんてことを申すのじゃ。かような大事なことを黙っておるなど、佐久間の家の信用に関わるではないか」
と、金切り声で叫んだ。
あないに忌み嫌う「南町」の御家であっても、体面は気にするのだ。
「……母上、大層申し訳ありませぬが、今はお控えいただきとうござりまする」
志鶴は志代の方を振り向きもせず、静かに一喝した。こんな志鶴を見るのは初めてだった。
志代はさような落ち着いた迫力に唖然として、口をぱくぱくさせたが、言葉はなにも発せられなかった。話を聞いていた初音も同じような顔をして、志鶴を見つめていた。
志鶴は、さらに深く頭を垂れた。