大江戸ロミオ&ジュリエット
多聞は横たわったまま、まだ目を閉じていた。
相手は我が名を知っておるし、そもそも与力の多聞が、身分が下である同心の尚之介に名乗りを上げる必要はない。
「御案じ召されるには及ばぬでござる。
奥方さまは実家の佐久間様に戻られて以来、つつがなくお過ごしになってござる」
尚之介は平伏したまま答えた。
志鶴が多聞の子を身籠ったことは云わなかった。
ましてや、おのれが生まれてくる子の父親になりたい、などと志鶴に告げたことも話すわけにはいかぬ。
志鶴は松波の家を出て……多聞と離縁する心積もりなのだから。