大江戸ロミオ&ジュリエット

「……おめぇさんだったんだな」

多聞はがらりと砕けた口調に変わった。
だが、まだ目は閉じたままだ。

尚之介はいつぞや志鶴と会っていた折に、多聞の手の内の者にでもその姿を見られていたのかもしれぬ、と察して身構えた。

家同士のつながりで姻戚を結ぶ武家にとって、「御家(おいえ)に背く」不義密通は重罪である。

相手の夫から「其処(そこ)に直れ、妻敵討(めがたきうち)なり」と、この場で叩っ斬られても文句は云えぬ。

ましてや、身分が上の与力だ。

< 315 / 389 >

この作品をシェア

pagetop