大江戸ロミオ&ジュリエット

「……多聞さま……またお会いしとうなんした」

上座に腰を下ろした多聞のもとに、梅ノ香が膝を進めてやってきて、ふわりとしなだれかかった。

前で結んだ帯がだらりと下がる。
その身からは、椿油の芳しい匂いがした。
抜かれた奥襟からは白い(せな)が見える。
ぱっくりと開いた掛襟からは、胸元が覗けそうだ。

吉原では幾重にも着物を纏っていたが、この仮宅では明らかに「薄着」だ。
大事な着物を火事で燃してしまった、という所以(ゆえん)であった。

「この夜がまだ『裏』であっても、わっちは多聞さまなら……もう、よろしゅうなんし」

梅ノ香はそう云って、熱っぽく潤んだ目で多聞を見上げた。

横兵庫にした髪のふっくらした髷の根元には、鼈甲の(こうがい)が挿されていたが、やはり吉原にいた時より少なかった。こちらも、火事で焼けてしまったのだ。

次の間に目を向けると、すでに色艶やかな夜具が敷かれていた。

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