大江戸ロミオ&ジュリエット
「……先達ては、あないなことをお云いになりなんしたが、やっぱり多聞さまはわっちをお見捨てになれぬお人でなんし」
梅ノ香は、ふふっ、とうれしそうに笑った。
「多聞さまが立派な与力になりなんしたら、たとえお妾であろうと、いつかきっと、わっちを迎えに来てくれなんしと、ずっと待っておりなんした」
縋るような目で、梅ノ香は多聞を見つめた。
「……わっちはこの十年、ただそれだけを思うて、この苦界を耐えてきなんした」
その棗のような梅ノ香の瞳に、みるみるうちに涙が込み上がってきていた。