大江戸ロミオ&ジュリエット
多聞は酒をくっ、と呑んだ。
一目見たとき、このおなごは「振袖新造」かと思った。
だが、振新であらば真っ赤な振袖を着て、帯は前で結んで長く垂らしているはずだ。
それに、髪は左右に張り出す燈籠鬢に結った島田髷である。
されども、おなごの着物は町家の娘がよく纏う鳶八丈の小袖で、しかも帯を後ろで結んでいた。
さらに、その髪もまた町家の娘がよく結う桃割れであった。
そもそも、振新がつくのは「呼出」かせいぜい「昼三」で、梅ノ香のような「座敷持ち」につくことはない。
多聞は怪訝に思った。
遊女や禿たちと異なり、まったく白粉をはたいておらぬこのおなごの顔は、どこからどう見ても純粋無垢で可憐な町娘なのに。
ひとたび微笑むと、どんなに豪傑で無粋な男であろうとも、これから先の世を狂わせられるやもしれぬ、危うい妖艶さを秘めていた。
まだ年端もゆかぬ初潮も来ておらぬような、あどけない「子ども」が、である。