大江戸ロミオ&ジュリエット

江戸では大店(おおだな)で知られた淡路屋の主人の最初の女房は、同じ廻船問屋の娘でお(たな)同士のための縁組だった。

恋仲だった実家(さと)のお店の手代を忘れられなかった女房とは、なかなか心を通わせることができず、子にも恵まれなかった。
ところが、夫婦(めおと)になって十数年も経ってから、いきなり腹に子が宿った。

だが、喜びも束の間、高齢で初産の女房は産褥の際に腹の子と一緒に命を落とした。

心にぽっかりと穴の空いたところに入って来たのが、おりつである。

水茶屋とは(うた)っているが、酒も出すような店で酌婦をしていた。されども、気落ちしていたのをやさしく励ましてくれた。

周りの反対を押し切って後妻(のちぞえ)におさめたのはいいが、いざ夫婦になってみれば、やれ芝居だの新しい着物だのと金遣いが荒く、店で働く者からの評判がますます悪くなった。

そんな折、気晴らしにと友人から勧められたのが吉原だった。

そうして出会った娼方(あいかた)が、梅ノ香だったのだ。

吉原の遊女など、男慣れした派手なおなごだとばかり思っていたが、梅ノ香は可憐で愛らしくそしてどこか儚げなおなごだった。

守ってやりたい、と思ったそのときにはもう、いい歳して初めて行った吉原で、生まれて初めての「恋」をしていた。


吉原の梅ノ香の(しとね)にいたある夜、淡路屋に押し込み強盗が入った。

盗賊たちを手引きしたのは……後妻(おりつ)だった。

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