大江戸ロミオ&ジュリエット

淡路屋が押し込み強盗入られて以来、(くるわ)通いをするほどの余裕がなくなったのか、三日と開けず来ていたのがぱったりと姿を見せなくなった。
盗賊に入られた一大事に、肝心の主人がお(たな)におらず廓にいた、ということで、お店の者に顰蹙を買った所以(ゆえん)もあるやもしれぬ。

だが、ひさしぶりに訪れてきた際に、明くる年梅ノ香が年季明けした暁には『店のことでは苦労をかけるだろうが、女房になってほしい』と、痩せてすっかり憔悴しきった顔で懇願された。
奉行所に捕縛され、この先厳罰が下るであろうおりつ(・・・)には、既に三行半(みくだりはん)を突きつけていた。


「……淡路屋は今、正念場だぜ。
前の女房が盗賊(ぞく)の手先だったんだからな。
奉行所(おかみ)から、店にも何らかの御沙汰があるかもしんねぇ」

多聞は手酌で酒を注ごうとした。(あわ)てて梅ノ香が銚子を手にする。

「だけどよ……もし、おめぇが新しい女房になって、子どものいねぇ淡路屋で子でも産めばよ。
店は活気づくし、亭主はもちろん店のヤツらだって、生まれた子が男あろうとおなごであろうと跡取りだっ()って、きっとおめぇ共々(ともども)大事(でぇじ)にしてくれるに()げぇねぇってのよ」

多聞は盃を差し出した。


「おめぇは生まれた子を真っ当な道に歩ましてくれる、(てて)親の子どもを産みな」

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