大江戸ロミオ&ジュリエット
富士が酒を持って座敷に行くと、源兵衛と彦左衛門が莨盆を挟んで、煙管で一服やっていた。
「おい、富士」
源兵衛が妻の名を呼ぶ。
「お千賀はついこの間ぁ、嫁入り先が決まっちまったがよ……お芙美はまだだっけな」
富士の姪の千賀には、一つ下に妹がいた。
「お芙美はまだなにも決まっておらぬが……
……だ、旦那さま、佐久間のお舅様の前でなんという物云いを」
体面を重んじる富士は、目を白黒させた。
「いやいやいや、奥方、遠慮は無用だ。構わねぇでくんな。こちとらも同じ町方役人だ」
彦左衛門は屈託なく笑った。
やはりこちらも家中では妻の志代が煩いゆえ、武家言葉を使っているが、御役目のときは町家言葉だ。
「さぁ、佐久間殿……酒が来やしたぜ」
源兵衛は銚子を傾けた。
「おっ、松波殿、そいつぁ、悪りぃねぇ」
彦左衛門が盃を差し出して、注いでもらう。
「奥方、うちの倅も二十四になるんで、なんとか今度ぁ『南町』から『北町』に嫁いでくんねぇかと思いやしてね」
お返しに、彦左衛門が源兵衛の盃に酌をした。
「さ…さようでございまするか」
突然の話にとまどいながらも、富士は愛想笑いを浮かべた。
「そんなら、うちの内儀さんの下の姪っ子はどうだいっ言ったのさ。
……佐久間殿、上のはてめぇが綺麗ぇなのを鼻にかけたヤツだが、妹は姉さんの影に隠れて目立たねぇけど、可愛くって気立てのいいおなごなのよ」
彦左衛門の顔がぱっと輝く。
「そいつぁ、願ったり叶ったりだ。
是っ非にも、うちの帯刀に御目通り願いてぇ。
手前味噌だが、面は志鶴に似て悪くねぇと思うんだがなぁ」
「よし来たっ。あとは、おいらに任せな」
源兵衛はおのれの胸をぽんっと叩いた。
富士はこないにまで二人の気が合う姿を見て、言葉もなく呆気に取られていた。