大江戸ロミオ&ジュリエット
多聞は屋敷から出て、厩へ向かっていた。
中に入ると、多聞が見習い与力の頃より仕える中間が愛馬の毛並みに沿って梳いていた。
おかげで燈明のほのかな明かりの下でも、黒鹿毛の馬体は濡れたような艶を放っている。
中間の男は多聞の姿が見えると、なにも云わぬのに、鞍を持ってきて馬の背に、ばさりと被せた。
そして、面繋を掛けたあと、馬の口に轡を噛ませて手綱をとった。
「悪りぃな、弥吉。恩に着るぜ」
多聞がそう告げると、弥吉と呼ばれた男はにやりと笑った。