大江戸ロミオ&ジュリエット

「志鶴……しばし、よいか」

縁側の方から声がした。兄の佐久間 帯刀だ。

志鶴はかような(とき)に何の用か、と(いぶか)しげに思ったが、縁側に続く(あかり)障子を開けた。

縁側の向こうには、夜目に兄の帯刀と島村 尚之介が立っていた。

「部屋には入らせぬゆえ、尚之介と少しばかり話をしてくれぬか」

帯刀は我が妹でありながら、顔色を伺うように申し出た。

確かに、夜も更けた時分に夫婦(めおと)どころか家族でもない若い男女が会うなどとは、武家でなくとも(はばか)られることである。ましてや、志鶴は別居しているとはいえ、人の妻だ。

もし、松波の家に知られたら、ただでは済まされぬ。帯刀もさようなことは重々承知の上で、無二の友のために一肌脱いでいるのだ。

志鶴は、こくり、と肯いた。

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