大江戸ロミオ&ジュリエット
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多聞は、北町の佐久間の組屋敷に着くと、愛馬からひらりと舞い降りた。

佐久間に仕える中間(ちゅうげん)が二、三人出てきた。
下馬した与力の姿の若侍を見て「しばし、お待ちを」と取り次いで、屋敷の中へ伺いに行く。

しばらく経って姿を現したのは、志鶴によく似た年配の女だった。母親の志代である。

眉間にしわを寄せ、険のある顔で現れた志代だったが、突如目の前に現れた端整な面立ちの与力に、思わず心の臓を高ぶらせた。
みるみる間に、表情が和らいでいく。
心なしか、頬がぽおっと赤くなっている。

(はは)上でござりまするな。
御挨拶が遅うなり、誠にかたじけのうござる。
……志鶴の夫の松波 多聞でござる」

多聞は深く腰を折って、一礼した。

志代は弾かれたように、はっと我に返った。
祝言の際には遠目で、はっきりと見えていなかったのに気づいた。

「まぁまぁまぁ……婿殿ではござりませぬか。
此処(ここ)はそなたの家も同様、遠慮は無用にてござりまする」

あないに「南町」を嫌っていたはずだが、志代は嬉々として多聞を屋敷の中へ招じ入れていた。
実は、家人には多聞が志鶴を訪ねてきても、決して家に入れるな会わせてはならぬ、と口を酸っぱくして説いていたのだが。

「さぁさぁさぁ、どうぞ、お入りなされ」

心なしか、娘時分に戻ったように声が高い。

多聞は愛馬の手綱を中間の一人に任せ、屋敷の中へ入った。

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