大江戸ロミオ&ジュリエット
「姑上、志鶴の部屋はあちらでござるか」
不意に、多聞が尋ねてきた。人の声がする部屋を指し示していた。
「如何にも、志鶴の部屋にてござりまする」
志代がかように答えると、
「姑上、御足労でござった。
……生まれてくる子について、志鶴とじっくり話がしとうござるゆえ、どうか二人きりにしてくださらぬか」
多聞はさように云って、真剣な眼差しで志代を見つめた。
志代は、多聞が子どものことを知って話しに来たのだとわかって、ぱっと顔が明るくなった。
「そ…そうじゃ、それがよい。二人でじっくりと話してみてござれ。二人は子まで生した仲なのじゃ。きっとわだかまっていたことなど、すぐに解けるでござりましょうや」
志代は云った。気が浮き立ち、少し早口になっていた。
「ありがたく存じまする。
子のことは本日、舅上から聞き及んだばかりではござるが、もちろん松波の家ではこの上なき慶びにてござる。
……我れらは茶もなにもいらぬがゆえ、御気遣いなきよう御願い致しとうござる」
多聞がきっぱりと告げると、すっかり安心した志代は「では、わたくしはここで」と云って、来た道をいそいそと引き返して行った。
そして、多聞は志鶴がいる座敷の襖の前に立った。
中から、志鶴の声が聞こえてきた。