大江戸ロミオ&ジュリエット
「尚之介さま、あなたさまのお気持ちは、大層ありがたく存じておりまする」
志鶴は、幼き頃の我が思いが、独り相撲でなかったことを知り、思わず微笑んだ。
「ならば……」
尚之介は期待を込めた目で、志鶴を見つめる。
「されども……わたくしは離縁はいたしても、再び嫁する気は毛頭ござりませぬゆえ」
志鶴はきっぱりと告げた。
幼い頃から抱いてきた我が思いが、実は空に浮かぶ綿雲へ向けて手を伸ばすような「憧れ」であったということを……
そして、一つ屋根の下で「夫婦」として暮らしを重ねるうちに知らず識らず芽生えた、大地に根を張った「揺るぎのない心持ち」には、決して敵わぬことを……
嫁したからこそ……多聞の妻になったからこそ、志鶴はその「違い」に気づいたのだ。
……せめて、この心持ちだけでも全ういたしとうござりまする。