大江戸ロミオ&ジュリエット
「なんで、おれとおめぇが離縁しねぇといけねぇんだ。子までできたのによ」
多聞は訳がわからぬ、という顔をした。
「なにをぬけぬけと……我が胸に手を当てて、ようお考えなさりませ」
志鶴が冷ややかな目で、じろり、と睨んだ。
もちろん、梅ノ香のことを云っていた。
思い出しただけでも、胸が沸々してくる。
すると、おもむろに、多聞が志鶴の胸で確かめるために手を伸ばしてきた。
「な…なにをなされるっ。ひ…人前でござりまするぞっ」
志鶴は金切り声をあげて、ぺしっ、と多聞の手を叩いた。
「痛ってぇ……おめぇが『我が胸に手を当てろ』っ言ったんじゃねぇかよ。
……あ、そうか。人前じゃなきゃいいんだな」
多聞は、縁側の向こうにいる尚之介に向かって声を張り上げた。
「おい、同心っ、用は済んだんだろ。
いつまでもつっ立ってねぇで、早う家に帰ぇれ」