大江戸ロミオ&ジュリエット
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「……『我が胸に手を当て』たって、さっぱりわかんねぇのよ」

多聞がごちると、志鶴の顳顬(こめかみ)に青筋が立った。

「わたくしが松波の家を出るのは、旦那さまにとってさぞかし都合良きことにてござりましょう」

つい厭味を込めた物云いになる。

一体(いってぇ)全体(ぜんてぇ)なんだってんだ。廻りくでぇのは()しとくれ。はっきりと云えよ」

多聞は志鶴に手を伸ばした。

「志鶴……云ってくれなきゃわからねえ」

志鶴は思わず後ずさりするが、たちまち多聞にぐいっと引き寄せられた。

すると、気がつけばもう、多聞の腕の中だ。

「……こないな時間におれの女房が、他の男と会ってんじゃねぇよ。びっくりすっだろうが。
おめぇがはっきりと、あの同心を突っぱねた声を聞いたからよかったけどよ。妻敵討(めがたきうち)にされてぇのかよ」

もがく志鶴を、逃げられないようきゅっと抱きしめて、その耳元で(ささや)く。


……やはり、このお方はずるいお人だ。

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