大江戸ロミオ&ジュリエット
多聞はふと思い出した。
確か姉の寿々乃が一人目の子を身籠った際に、かような様子になり、実家に帰された。
実母の富士が娘である寿々乃に、
『母となる身がなんと情けない姿。そなたをかように育てた覚えはござらぬぞ』
と云って「武家の女」の心得を毎日説いた。
すると、あの気丈な人がすっかり塞ぎ込んでしまい、挙げ句の果てには、
『かような我が身では水島の家に迷惑をかけるゆえ、離縁したい』
と云い出し、実家の松波も婚家の水島も右往左往させられた。
あのとき、義兄の水島 織部は、御役目が終われば松波の家に日参し、家人の目も憚らず寿々乃をまるで幼子のように抱きしめて、寿々乃が水島の家にとって如何に大切で必要かを切々と説いた。
そのさまを見た富士は『武家の身も弁えず、はしたなきこと』と激怒した。
だが、その水島の尽力のおかげで、寿々乃の心持ちは凪いだのだ。子も無事産まれた。
……結局、姉ちゃんは二人目の際にはとうとう実家に帰らずじまいだったな。