その瞳は、嘘をつけない。
ー「どういう意味だ?あんな環境とは。」

ー「うーん、なんというか。
  虐待とかじゃないんですよ、もちろん。
  ちょっと、厳しすぎるというか。」

ー「ほぅ。」

ー「あいつのお母さん、悪い人じゃないんですよ。
  ただ、たまにヒステリーっぽいところもあって…。小さい頃は殴られたりとか、かなり酷かったみたいです。
  僕が知り合ったころには大分落ち着いてたみたいなんですけと。
  それでも、言葉の暴力みたいなのは酷くて。」

ー「(自己肯定感に問題があるかも、な)」

ー「あんなに、言われてるのに、あいつは何も言い返さないんです。慣れてるから大丈夫って、笑って。
  でも高校生の時から、早く家を出たいんだっていって、あの頃から弁当も自分で作ってた。
高卒の時点で就職したがってたけど、母親が言うままに受験して。」

ー「僕と暮らし始めてからは、一度も実家には帰ってないはず。連絡も取ってないかも。
  その時はそれが良いと思ってました。僕もあの人苦手だったし。
  でも最近、僕も育児本とか読むようになって。
  もしかして、今の実加、あの母親のせいでああなってるのかなって・・・思って。 
  僕、あの頃はそういうの、全然知らなくて。何にも助けになれてなかったなぁ…って。」

ー「一緒にいてやるだけで支えになっていただろうさ。気にするな。」
 
現に俺も、助けてやれていない。
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