その瞳は、嘘をつけない。
もちろん、分かる。
理屈は分かるんだ。

でも、本当のことを言って、否定されたらどうするの?
嫌われちゃったらどうするの?

受け入れてもらえなくなるくらいなら、黙っていた方がいい。
それは、自然なことなんじゃないかな。

「前に1人だけ、付き合っていた女がいた。」

「!?」

思いがけない話に、心臓が飛び上がる。

秀くんの、私と会う以前の話。

気になったことがないと言えば嘘になる。

今まで彼女がいなかったなんてこと、秀くんに限ってあり得ない。
より取り見取りだったんじゃない?
でも、聞いても嬉しくないのは間違いないし、
あえて話題にしたことはなかった。

「学生の時から付き合っていて、俺が警察学校に入校中も
そのあとも、遠距離だったけど、ずっと順調だと思っていた。」

「遠距離・・・。」

転勤がある人と付き合うって、そういう覚悟も必要なんだ。

「だが順調だと思っていたのは俺だけだった。
彼女は、地元の同じ会社の男とくっついてた。」

「そんな・・・。」
ひどい。

でも今なら、秀くんの元カノさんの気持ちも分かる気がする。
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