男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
翌日は緊張感もあってアベルが扉を叩いた時には、ミシェルは支度を終えていた。まだ外はお日様が出る時間ではなく暗い。


「おはよう。ちゃんと起きられたな。感心、感心」


黒髪をきちんと整えビシッとしたアベルは、ミシェルがすぐに部屋から出てきたのに気をよくして表情を崩す。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
 

頭を下げるミシェルの蒼いリボンでひとつに結んだ髪が揺れる。


「では行こう。陛下のお部屋へ行く前にやることがある」
 

アベルはざっとミシェルの姿を見てから歩き始めた。

まずアベルは同じ階にある国王専用台所へ行き、お湯を沸かす。お茶の用意が終わると、一式を持って国王の私室へ向かう。

城の使用人たちもすでに仕事をしていた。
 
廊下の重厚なカーテンを開ける者や、リネン類を洗濯場へ持っていこうと抱えている者、一階にある台所からは微かにパンが焼ける香りもしてくる。

三階へ到着する頃にはお腹が鳴りそうだった匂いもなくなった。

国王の私室がある三階は、ミシェルが今まで嗅いだことのない高貴な香の匂いが漂う場所になる。
 
私室の前に衛兵がふたり立っていた。夜通し国王を守る者だ。


< 23 / 272 >

この作品をシェア

pagetop