男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
妹のイヴォンヌは現在二十二歳で十六歳の時に社交界デビューをしている。陶磁器のような白い肌や艶やかな黒髪と琥珀色の瞳、美しい顔で貴族の子息たちからの求婚も頻繁にされているが、すべて断っている。
 
彼女が恋をしているのはこの国の王、クロードだった。


「フランツはまだここでの習わしを知りません。私がお側に……」
 

アベルはフランツだけ側にいさせ、なにか粗相でもあったらと思い物申す。

だが、クロードは相手にせずに命令した。


「いや、お前は休んでいろ。彼だけでいい」

「わかりました」


アベルは敬愛の意を込めて深く頭を下げた。
 
ふたりの会話を聞いていたミシェルは驚くばかりだ。


(アベル侍従がいないのに……ちゃんと出来るのか心配……)


「陛下、イヴォンヌさまにお会いになられるのなら、衣装をご用意しておきましょう」
 
アベルは執務中の衣装ではなく、もう少し華やかなものにしたほうがいいと口を開く。
 
今、クロードが着ているのはグレーのジュストコールにスリムなズボン、黒いブーツ。すべてが上質なものだが簡素である。
 
ごちゃごちゃ飾りのついた服はあまり好みではないとアベルから聞いている。夜会や貴族たちとの食事会では致し方なく、華やかな服を身につけるのだが。


「パーティーではない。このままでいい」
 

クロードは興味がなさそうに、運ばれてきた朝食を食べ始めた。
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