男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「あ! あそこのお菓子屋さんへ行ってもいいですかっ?」
 

なぜ貴族の男性とごく普通の恰好をした娘が歩いているのか不思議に思われているかもしれない。


(注目を浴びているのはクロードさま)
 

ミシェルは気にしないようにして辺りを見た時、甘い匂いが漂ってくる一軒の店があった。


「ああ。行こう」

「ありがとうございます」
 

にっこり笑ってお礼を言うミシェルにクロードは顔を顰める。


「お礼なんて言わなくていいんだ。私は好きでお前と一緒にいるのだから」

「クロードさま……」
 

フランツ以外の男性とこんな風に話をしたことがない。いや、大人の雰囲気たっぷりなクロードに比べたら、フランツはまだまだ子供だろう。
 
ミシェルの胸がトクンと鳴った。左手を胸のところでギュッと握り、高鳴ってくる鼓動を抑えようとした。


「ほら、クロードと呼んで」

「……クロード」

ミシェルは静かにクロードの名前を呼んだ。


「いいね。君の口から聞く名前が特別なものになったように感じる」
 
口が上手い男には気をつけなさいと、母親から言い聞かされていた。ミシェルはふと母親の言葉を思い出す。


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