男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「お前、どこかで会ったことはないか?」

「い、いいえっ! 会ったことがあれば、忘れるはずはありません!」
 

ミシェルは強く言い切り、クロードの腕から思いっきり離れる。心臓がこれ以上ないほど、大きく暴れている。


(へ、陛下だわ! ベッドの香りと同じ……)


ピッタリ近づかなければわからないということは、クロードの身体から発せられる香りなのか。


「そうか? どこかで見たような顔だと……」

「こ、こんな平凡な顔なんて、そこら中にいます」
 

ミシェルはバレませんようにと、心の中で祈る。

そして、これ以上は一緒にいられない。ミシェルは別れる理由をパニックに陥った頭で一生懸命考える。

クロードは急に挙動不審になったミシェルに首を傾げる。


(どこかで見た顔だと思ったが……)
 

マーサの店でスープとパンを美味しそうに食べるこの娘を見て、クロードはなぜか惹かれた。
 
しかし、会ったことがあれば忘れないだろう。


「では次にどこへ行く?」
 

そう尋ねたところで、ミシェルは大きく首を横に振った。

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