男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
花の山車を見に行きたいと言い聞かせても、本当は伯爵の子息のフリをしているクロードと村の娘ミシェルとして会いたい。

今から出ればマーサの店で着替え、遅刻はしないはず。前回のように荷馬車に乗ることは出来ないだろう。あれは運がよかった。

あの日の帰りは歩きだった。急いで歩いても二時間はかかる。


「やっぱり行こう。もしかしたら陛下は来られないかもしれない」
 

アベルから今日のクロードは午前の謁見後、一日中執務室で公務だと聞いていた。
 
ミシェルは用意を済ませて王城を出た。




「マーサ!」


フランツとして、ミシェルは店の中へ入った。まだ誰もいないことを確かめた後にだ。用心に越したことはない。
 
マーサは奥の台所から顔を出した。


「ミシェル、やっぱり来たんだね」
 

あの日、フランツに戻ったのち、五日後に来るかもしれないし、来ないかもしれないとマーサに伝えてあった。
 
そして、クロードのことは我が国の国王陛下かもしれないとは言っていなかった。もし本当だったら、マーサはあんな風に気軽に話せなくなる。

クロードが伯爵の子息だと思わせておきたいのなら、軽々と口にしてはいけない。


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