薄羽蜉蝣
赤松稲荷は郊外の寂れた土地にある荒れた社だ。
提灯で照らし出された稲荷の後ろに、大きな柳の木が見える。
「いねぇな」
稲荷に近付きながら、与之介はきょろきょろと辺りを見回した。
時刻の指定はなかったので、まだ来ていないのかもしれない。
「……あの」
与之介のすぐ後ろで、佐奈が小さく口を開いた。
「ちょっと思ったんですけど。もしかして呼び出したのは、父の関係の人間じゃないかと……」
与之介が振り返る。
「仲間ってことか? 誰か、知ってんのか? 心当たりはないって言ったよな」
「誰、という心当たりはないです。父のことも、亡くなるまで知らなかったわけですから、そんな仲間がいることも知りません。でも、私を名指しにするのは、それぐらいしかないんじゃないかと」
あくまで憶測ということか。
だが当たらずとも遠からずではないかと、与之介も思う。
そのとき、がさ、と草が鳴った。
「ふへへ。お佐奈よ、別嬪になったなぁ」
野太い声がし、一人の男が柳の後ろから姿を現した。
片手でおせんを抱え、もう片方の手には匕首が握られている。
ずいっと佐奈が前に出た。
「誰です。私に何の用?」
「へ、誰か、と来たか。まぁおめぇは知らねぇだろうけどなぁ。俺はよぅく知ってるぜ?」
へらへらと笑う男を、佐奈はじっと見た。
が、やはり見覚えはない。
「とにかく、要求通り来たのですから、その子を放しなさい」
このような場でも臆することなく毅然と言い放つ佐奈に、男は少し面食らったようだ。
が、すぐに元の馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「へへ、さすがに鬼神の玄八の娘だな。けどなぁ、ガキを放すのは、おめぇさんが素直に俺の問いに答えてからよ」
男が、これ見よがしに、おせんの首に匕首を突き付ける。
おせんの顔が、恐怖に引き攣った。
提灯で照らし出された稲荷の後ろに、大きな柳の木が見える。
「いねぇな」
稲荷に近付きながら、与之介はきょろきょろと辺りを見回した。
時刻の指定はなかったので、まだ来ていないのかもしれない。
「……あの」
与之介のすぐ後ろで、佐奈が小さく口を開いた。
「ちょっと思ったんですけど。もしかして呼び出したのは、父の関係の人間じゃないかと……」
与之介が振り返る。
「仲間ってことか? 誰か、知ってんのか? 心当たりはないって言ったよな」
「誰、という心当たりはないです。父のことも、亡くなるまで知らなかったわけですから、そんな仲間がいることも知りません。でも、私を名指しにするのは、それぐらいしかないんじゃないかと」
あくまで憶測ということか。
だが当たらずとも遠からずではないかと、与之介も思う。
そのとき、がさ、と草が鳴った。
「ふへへ。お佐奈よ、別嬪になったなぁ」
野太い声がし、一人の男が柳の後ろから姿を現した。
片手でおせんを抱え、もう片方の手には匕首が握られている。
ずいっと佐奈が前に出た。
「誰です。私に何の用?」
「へ、誰か、と来たか。まぁおめぇは知らねぇだろうけどなぁ。俺はよぅく知ってるぜ?」
へらへらと笑う男を、佐奈はじっと見た。
が、やはり見覚えはない。
「とにかく、要求通り来たのですから、その子を放しなさい」
このような場でも臆することなく毅然と言い放つ佐奈に、男は少し面食らったようだ。
が、すぐに元の馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「へへ、さすがに鬼神の玄八の娘だな。けどなぁ、ガキを放すのは、おめぇさんが素直に俺の問いに答えてからよ」
男が、これ見よがしに、おせんの首に匕首を突き付ける。
おせんの顔が、恐怖に引き攣った。