薄羽蜉蝣
「何です」

「玄八は、盗んだ金をどこへやったんだい」

「知りません」

 あっさりと答えた佐奈に、一瞬男はぽかんとした。

「さぁ、ちゃんと答えました。その子を放しなさい」

 佐奈の言葉に、男の額に青筋が立つ。

「ふ、ふざけんじゃねぇ! それで納得すると思ってんのか? 玄八が盗んだ金は見つかってねぇって話だ。娘のおめぇに残したに決まってるだろう! おめぇには隠し場所を教えたはずだ!」

「私の父は、表店で商売をやっていた、単なる商人です。そんな話、聞いたこともありません」

 佐奈の言葉は淀みがない。
 本当に知らないのだろう。
 父親の正体も知らなかったのだから、当然と言えば当然なのだが。

「信じられるか! あれだけの金を誰にも教えないはずはねぇ! しらばっくれるなら、このガキの首に穴が開くぜ!」

「ひっ! い、いやぁ~! 与之~~~! お姉ちゃ~ん!!」

 ぐい、と首に匕首を押し付けられ、おせんが我慢できなくなったように泣き叫ぶ。
 初めて佐奈が、動揺したように踏み出した。

「やめなさい!!」

「助けて欲しけりゃ、知ってること喋りやがれ!」

「私は何も知らないんです! 父のことも亡くなってから知った! 私が知ってることは、これが全てです!」

「何だとぉ? くそ、鬼神の玄八ともあろう者が、とんだドジ踏んだものだぜ」

 ぎりぎりと、悔しそうに男が歯軋りする。
 そして血走った眼を佐奈に向けた。

「だったらその金、おめぇに作って貰おうか。へへ、その器量じゃ、花魁だって張れるだろうよ」

 にやりと笑い、男は、じり、と佐奈に近付く。

「大体玄八の野郎、いちいちうるせぇ奴だった。金は平等に分けろだの、殺しはするなだの。俺が幼子を廓に売っ払ってんのを嗅ぎ付けるや、死ぬほどぶん殴りやがって。てめぇだって盗人のくせに、あくどい商人からしかごっそり盗まねぇ。金なんざ、あるところから盗りゃいいんだ。身代が潰れないよう気を使うぐらいなら、盗人なんざするなってんだ」

「確かにな」

 不意に聞こえた低い声に、ぎょ、と男が怯んだ。
 佐奈の後ろから、与之介がゆっくりと前に出る。
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