薄羽蜉蝣
「義賊だろうが何だろうが、盗人は盗人。悪人にゃ変わらねぇ。むしろお前のような野郎のほうが、正しい姿だろうぜ」

「な、何でぇ、おめぇは」

 今の今まで佐奈しか見ていなかった男が、驚いたように言う。
 与之介に気付いていなかったわけではなかろうが、今まで特に何も言わず後ろに控えているだけだったので、用心棒とも思わなかったのだろう。

「お前は玄八の仲間か」

「へ。聞いてどうする。俺にゃもう後はねぇ。お前ら全員バラしてやる」

「ふん。お前がそんな悪党だから、玄八も信用しなかったんじゃねぇのかい」

 鼻を鳴らすと、男はおせんの首につけていた匕首を、与之介に突き付けた。

「うるせぇ! 奴は甘いんだよ! おめぇも言ったろ、殺しはしねぇ、金も真面目な大店からは、少し頂くだけなんざ盗人じゃねぇ! 挙句一人幼子を殺したぐれぇで足を洗うとか言いやがる。盗人なんざ、畜生働きしてこそじゃねぇか?」

 ふ、と与之介は息をついた。
 こいつをここで逃すと、町に災いをもたらすだろう。
 佐奈にも危険が及ぶかもしれない。

 この男は自分で『後がない』と言った。
 切り放ちで戻らなかったのだから、捕まったら打ち首だ。
 追い詰められているのだから、何をするのも躊躇いはないはずだ。

「おせんを放せ」

 低く、与之介が言った。
 ぴり、と辺りの空気が変わる。
 男もそれに気付いたようだ。

「は、放すかよ!」

 怒鳴るなり、足を踏み出し与之介に向けて匕首を突き出す。
 それをぎりぎりでかわすと、与之介は反転しざま、男の懐に入る。
 そして思い切り肘鉄を男の顎に打ち込んだ。

「ぶっ!」

 歯をまき散らしながら、男が後方へ吹っ飛ぶ。
 素早く与之介は、おせんを引き寄せ奪い返した。
 そのまま投げ飛ばすように、おせんを後ろの佐奈に渡す。

「逃げろ!」

 怒鳴るように言われ、佐奈はおせんの手を取って走り出した。
 走りながら、ちらりと振り返ると、与之介はその場に留まって、男と対峙している。
 転びそうになりながらも必死でついてくるおせんを抱き寄せ、佐奈はとりあえず、目についた草むらに身を隠した。
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