溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
信じられなくて手にしていた羊羹が刺さった爪楊枝を、お皿に落としてしまう。

「でもすぐには来られないようで」

その話にホッとしたのも束の間、おばあちゃんは続ける。

「それで春休み中の彩音ちゃんが来てくれるって言うの。就職も東京でしたいみたいで、下見も兼ねて環奈に代わって私の面倒を見てくれるって」

「彩音が……?」

「えぇ」

彩音は私の七歳下の妹だ。そうなるとそっか。ちょうど就職活動の時期に入るんだ。

彩音と最後に会ったのは、彼女がまだ中学一年生の時。

彼女は明るくて天真爛漫で、可愛くて。人に甘えるのが上手な子だった。だから年頃にもかかわらず、新しい家族にもすぐに馴染んでいた。

お父さんもすっかり彩音のことを気に入っていたし。……きっと心を閉ざしたままの私より可愛かったんじゃないかな。

それに比べて私は新しいお母さんを受け入れることができなかった。一度も「お母さん」なんて呼べなかった。

だって私にとってお母さんは、たったひとりしかいないから。
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