冷徹王子と成り代わり花嫁契約

「イリヤ様!」


思考が止まりそうになったその時、兵士達が風に吹き飛ばされたかのように倒れ込んだ。

暗がりの中、よく目を凝らすと、闇に溶け込むカラスのような服を着たヴァローナがこちらに向かって手を広げていた。


「ヴァローナ……私のことをイリヤって……」


初めて彼に呼ばれた本当の名に動揺している私に構うことなく、ヴァローナは切迫した様子で声を張り上げた。


「こちらへ飛んでください、早く!」

「そんなこと……」


できるわけない、と言いかけた言葉は、ヴァローナの真剣な表情を見ていると吐き出すことは叶わなかった。

私の焦燥感を掻き立てるように、爆音を立てて蹴破られたらしい扉と机。

背後からこちらに向かって連鎖的に倒れ込んでくる本棚をちらりと振り返って見てから、私はぎゅっと目を瞑った。


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