冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「ここから下りてください」
ヴァローナは淡々とそう言って私を、壊れ物を扱うようにそっと下ろした。
「ここって……ここ?」
「はい」
まさか、と思いながら古びた井戸を指さすとヴァローナは当然のように頷いて、腰に下げていたロープを取り、鉄製のポンプに括り付け始めた。
全く、エリオット王子と関わりを持ってからろくなことがない。私はズキズキと痛み始めたこめかみを押さえてヴァローナの準備が出来るのを待った。
(全く……二、三回は叩いてやるんだから……)
呪詛のように繰り返しそんなことを考えていると、準備が終わったらしいヴァローナが不意に振り向いて、私の顔を見て一瞬怪訝そうな表情をした。
どうやら私はものすごい剣幕をしていたらしい。慌てて咳払いをして作り笑いを浮かべて誤魔化した。
「イリヤ様、行ってください!」
さすがに悠長にしすぎたのか、私達に向かって照らされた明かりと、少し離れた場所から聞こえる怒鳴り声。
ヴァローナに背中を押される形で私は地下に繋がるロープに手をかけた。