冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「……っ!」
ロープを握り直そうと一瞬片手を離したことで、自らの体重を支え切れなかったもう片方の手が悲鳴を上げた。
気が付いた時には私の身体は宙に放り出されていた。
「きゃああぁっ!」
手袋も何もなくロープを握り締められる力など女の笑にあるわけもなく、落下しながらジリジリと熱を持って痛む手のひらを握り締めた。
背中に衝撃が走って、一瞬息が止まる。
下りている最中は高いように感じていたが、実際はそれほどの高さはなかったらしい。
「もう……本当にこの格好で良かったわ」
痛みを堪えながら地面に手をついて、身体を起こす。目の前に広がる暗闇と、うっすらと見える二手に別れた道。
「……どっちへ行けばいいの?」
一人呟いても、当然返事があるわけはない。
自分の背の高さよりもずっと上にあるロープの端を見上げて、ため息をついた。
(戻るのは無理そうね……ヴァローナが来るのを待つ……?)
立ち上がって腕や背中についた砂埃を出来る限り払い落としながら、思考を回す。
ヴァローナは先に行くように言っていたが、二手に分かれているとは彼も知らなかったのだろう。
何か明かりになる物はないかと辺りを見回し、目を凝らしてみる――ふと、左手からぼんやりと小さな灯火が見えることに気が付いた。
それは、少しずつこちらに近付いてくる。