恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「そうだな。たまには二人きりにしてくれ、緑礼。では」
不快な表情も見せず、即座に鳴鈴には聞こえないくらいの小声で切り返した飛龍。緑礼は一瞬言葉を失ったが、たちまち破顔した。
「ははっ、喜んで。お妃さま、いってらっしゃい!」
「え、ええ??」
よくわからないまま、鳴鈴は飛龍に手を引かれて歩き出した。背後では飛龍に注文されて焼きあがった餅が星稜王府の人々に配られていた。
「殿下はお優しいのですね」
鳴鈴が言った。甘いものを食べ、飛龍に手を繋がれて二人きりで道を歩く彼女は、幸福で満たされていた。
「何が?」
「みんなの分まで、餅を」
富を自分で独り占めするのではなく、周りに分け与える飛龍を、鳴鈴は尊敬していた。
餅の出費は大したことないが、干ばつによる飢饉が星稜に訪れた時、彼は王府の食糧庫を開き、自らの財産をはたいて民を助けたと緑礼に聞いたことがある。
「それだけで人格を評価してもらえるのか。お前の信用を得るのは容易いな」
皮肉めいた笑いを浮かべる飛龍。鳴鈴は皮肉を言われたとは思わず、微笑みで返した。