恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「鳴鈴?」
後ろから声をかけると、鳴鈴は驚いたようで、大げさに体を震わせた。
「殿下。びっくりさせないでください」
「別に驚かせるつもりはなかったんだが……何をしていた」
被帛でも風で飛ばされて枝に引っかかってしまったのかと飛龍は思ったが、見上げてそれらしきものはどこにもない。ただ丸っこい花を付けた桃の花が見えるだけ。
「桃の花を少しだけ拝借しようと思ったのですけど届かなくて」
そう言ったあと、鳴鈴は「しまった」と言わんばかりに慌てて口を押えた。園林の木を傷つけたら、主人である飛龍に怒られると思ったのだろう。
飛龍はすっと枝に手を伸ばした。長身の飛龍は難なく一番下の枝に手が届く。細い枝の先をぽきりと折ると、鳴鈴に差し出した。
「ほら。室内に飾るのか。もう少しいるか」
聞くと、鳴鈴は差し出された枝を嬉しそうに受け取り、ふるふると首を横に振った。
「いいえ。あの子たちに花びらを食べさせてやろうと思って。この前ここで、野鳥が桃の花をつまんでいたのを見たものですから」
鳴鈴が「あの子たち」と呼ぶのは、先日買ってやった小鳥のことだ。
「ふうん。中毒を起こさなければいいがな」
「なっ、怖いこと言わないでください!」