恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
どうすればいいか考えているうちに、鳴鈴が顔を上げた。濡れた目が悲し気に飛龍を見つめていた。
「好きなひとが……いらっしゃるのですね……」
「ん?」
鳴鈴の言葉に飛龍は耳を疑った。
「でしたら、その方を王府にお迎えください。私は、私は……」
「ちょっと待て、何の話だ」
「自分が愛されないのも悲しくて辛いけど、殿下がずっと寂しい思いをしているのも嫌だから」
彼女が何を言っているか、飛龍はてんでわからなくなってきた。
他の女の話なんて、いったいどこからでてきたのか。
「落ち着け、な」
とうとう飛龍が一歩踏み出し、鳴鈴の肩をつかんだ。しかし完全に暴走状態の鳴鈴には飛龍の声が届かない。
「だから、雪花という方を王府に招いて、お妃にしたらよろしいと言っているのです!」
鳴鈴の高い声が、飛龍の胸板にぶつかって、落ちた。
目を見開いた飛龍と、嗚咽を零す鳴鈴の間に、冷たい雨が降る。雫はいつの間にか勢いを増し、二人をびっしょりと濡らしていく。
「……どうしてお前がその名を知ったのかは聞かないが、俺は雪花を妃にすることはできない」
やっとの思いで絞り出した飛龍の声は、いつもより低かった。