恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「どうしてですか?」
その質問に、飛龍は静かに答えた。何かを覚悟したように。
「彼女は、すでに鬼籍の人だから」
鳴鈴が息を飲む声が飛龍の耳に聞こえた。
「そして、お前を抱けなかったのは……それは、お前が可愛すぎるからだ」
「え……っ?」
鳴鈴が目を見開いた。
(もう誤魔化せない。本当のことを話すときが、きてしまった)
できれば話したくなかった。雪花のことを知れば、鳴鈴が怖がるだけだと思っていたから。
そもそも、こんな生活がずっと続くわけはなかったのだ。鳴鈴の優しさに甘えていた。
一般的に、愛されない妃は他に恋人を作って寂しさを紛らわせるという。鳴鈴もそうすればいいと初めは思っていた。
けれど、鳴鈴がそんなことをできる娘ではないことはすぐにわかった。では、子供がいなくてもふたりで穏やかに暮らしていこう。戦に出た頃からそう思っていた。
「それは、どういう……」
鳴鈴が言いかけた時だった。王宮の中から、悲鳴のようなものが聞こえた。二人は同時に振り向く。
園林の端に見える回廊に、誰かがいた。
二人は一緒に回廊の方に駆けていく。すると、そこでひとりの侍女が刃物を持って暴れていた。