恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

「なんだあれは」

侍女は髪を振り乱し、笑いながら踊るように刃物を振り回す。その動きは不規則で、周りの者たちはなんとかしなければと思いながら、手を出せないでいた。

「乱心してる」

侍女の掠れた笑い声が聞けるくらいの距離まで来て、鳴鈴はぞくりと背中を震わせた。こんなに異常な風景を、彼女は見たことがなかった。

「お妃さま! 近づいてはいけません!」

緑礼が回廊から侍女を避けて駆けてくる。ばしゃばしゃと彼女の足元で雨水が跳ねた。

「いったい何があった」

飛龍が尋ねると、緑礼は首を横に振る。

「よくはわかりません。侍女たちの話によると、彼女は殿下宛ての麻香をこっそり食べ、その直後から様子がおかしくなったとか」

「あの麻香を?」

鳴鈴が青ざめる。飛龍はちっと舌打ちをした。

「だから食べるなと言ったんだ」

「私のせいだわ。自分の部屋に置いておけばよかった」

雨の中、すこしずつ侍女に近づく鳴鈴。飛龍と緑礼がその行く手を止めた。

「どこに置いておいたって、食べるやつは食べます。お妃さまのせいではありません」

緑礼の言葉に飛龍がうなずく。

でも、と鳴鈴が二人を見上げた時だった。一際大きな悲鳴が上がった。

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