恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
三人でそちらを振り向くと、刃物を持った侍女が、意味不明な言葉を叫びながら自分の喉に切っ先を向けている光景が目に入った。
「ダメっ!」
鳴鈴は思わず駆け出す。予想外の速さに、飛龍と緑礼は不覚にも彼女を逃がしてしまった。
庭から回廊への階段を駆け上がった鳴鈴は、侍女に飛びかかった。喉を貫かせないよう、両手で侍女の手をつかむ。
「目を覚まして……っ!」
訴えかける声が聞こえたのか、侍女が恐ろしい鬼のような顔で鳴鈴を睨む。次の瞬間、すさまじい力で腕を凪ぎ払われ、鳴鈴が横に倒れた。
見上げた鳴鈴の目に映ったのは、口の端から泡を零している侍女の顔と、振り上げられた切っ先だった。
銀色の光が、鳴鈴に向かって一直線に振り下ろされる。
「お妃さま!」
硬直する鳴鈴の前に、大きな影が躍り出た。刃は鳴鈴を抱いた影を切り裂く。紅の血が飛び散った。
「殿下!」
鳴鈴の悲鳴が響く。彼女を守った影は、黒い服を着ていた飛龍だった。
左腕を傷つけられた飛龍が苦痛に顔を歪める。侍女はまだ刃物を持っていた。飛龍の血がしたたり落ちる。