恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
たしか歳は二十九。鳴鈴より十一歳上。いい年なのに正妃さえいないというのだから驚きだ。
(武将として有名を馳せているのにまだお妃がいないなんて、何かとんでもない欠陥があるに違いないわ)
心の中で翠蝶太妃を恨む鳴鈴だった。どうしてそんな変わり者に自分を嫁がせようと思ったのか。
「衣装はこういうときのためにと思って用意してある。お前はよく書物を読み、勉強しておけ。舞と琴の稽古も忘れずにな」
「ちょっと童顔だけれど、あなたは可愛いわよ。自信を持って」
両親はおとなしくなった鳴鈴に笑顔を向け、言いたいことを言う。鳴鈴は黙ってうなずくと、主人の間を辞した。
「鳴鈴さま……」
さすがに気の毒になったのか、緑礼が心配そうに鳴鈴の顔をのぞきこむ。その大きな瞳には今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「しかたないわよね……そうでしょう?」
自分が嫁がなければ、徐家が落ちぶれてしまう。
頭ではわかっているのに、心は受け入れられないでいる。
肩を震わせて泣き始めた鳴鈴を、緑礼がそっと引き寄せる。鳴鈴は遠慮なく、その胸に顔をうずめて泣いた。