恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
武勲など立てなければ。宿鵬より目立たなければ。立太子などされなければ。
ただ辺境領地の王として平凡に地味に生きていれば、これほどまでの嫉妬はされなかったはず。
雪花も、きらびやかな毎日は送れなかったかもしれないが、一緒に笑って生きていられただろう。
やがて、切られた傷が元で、宿鵬は死んだ。それと同時に雪花の実家である梁(リョウ)一族の殲滅が、皇帝より言い渡された。当然、雪花のために飛龍が立てた梁家の廟も破壊された。
「なぜこんなことをした」
処刑前、こっそり会いにいった飛龍の問いに、雪花の父は掠れた声で答えた。
「殿下の手を汚したくはなかったのです。雪花も、それは望んでおりません」
「そんな……」
「今までの厚い御温情、ありがとうございました」
父親は深く頭を下げた。それが、今生で彼と会う最後となった。
その三日後、下手人の父親はもとより、多くの人が無残に公開処刑された。
飛龍はそれを見に行くことはしなかった。それより、ひとりでも多くの梁家の人間を密かに他国へ逃がすことに力を注いだ。
事件がひと段落したあと、飛龍は皇太子の地位を返上した。