恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
それまでの落ち込み方が嘘のように、ときめきで音まで鳴りそうな胸を、自分でそっと押える。
「だから……な。お前を抱かなかったのは、決してお前が嫌いだとか、魅力がないとか、そういう理由じゃない」
落ち着いた低い声が、鳴鈴の鼓膜を揺さぶる。
「怖かったんだよ。俺が妃を寵愛していると知れば、ちょっかいを出してくるやつがいる。子供が増えて、武勲を挙げて……となれば皇太子の座を狙っていると疑われ、俺だけでなく妃や子供が被害に遭う」
「殿下……」
飛龍にとって一番辛いのは、目立つような幸せを人に見せつけることだった。
皇帝に可愛がられている反面、仲の悪い兄弟やその妃、母親などは飛龍を煙たがっている。
未だに次期皇帝の座を諦めていない兄弟は、飛龍の結婚すらよく思っていない。
鳴鈴の徐家は一応貴族で、父親は官吏だ。徐家が力を持つのを妨げたいという思惑を持つ輩もいるだろう。
「だから俺は、子孫を残さずにこのまま年老いて死ぬつもりだった。そうすれば、もう大事なものを傷つけることもない。梁家のような悲劇はもう起こしてはならない」
低い声がより一層低くなる。