恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
明朝、夜明けと共に星稜王府を出発した飛龍に、鳴鈴は当然のように付き添っていた。
翠蝶徳妃が気に入ってくれた笛を持ち、急ぐ馬車の中でじっと外の気配をうかがう。
また賊に襲われはしないかと気が気ではなかったが、その心配は不要だった。
星稜王府一行は、馬を休める時間だけわずかにとったが、その日の夜には皇城に辿り着いた。
「翠蝶徳妃さま!」
到着してすぐ、鳴鈴と飛龍は翠蝶徳妃を見舞った。
後宮に皇帝以外の男が入るのは基本的に許されていないが、義理の息子である飛龍は特別に許可を得た。
「あら……ふたりとも。ごめんなさいね、心配かけて。たいしたことないのよ」
褥から起き上がろうとする翠蝶徳妃を、飛龍がそっとその肩を押して止める。
疲れてはいそうだが、予想以上にいい顔色の翠蝶徳妃に安心した鳴鈴は、ほっと息を吐いた。
「いったい何があったのです」
飛龍が聞くと、翠蝶徳妃は怪我を負った時のことを思い出すように、天井を見上げたまま話した。
「なにがなんだかわからなかったわ。お庭を散歩していたら、突然矢で射られたのよ」
「ひえっ」
「大丈夫よ鳴鈴。腕を掠めただけで済んだの。すぐに護衛が手当てをしてくれたし」