恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
思わず悲鳴を上げた鳴鈴を安心させるように、翠蝶徳妃は汗ばむ顔でうっすら微笑む。
褥から出た手首に包帯が巻かれているのが見えた。命が助かったのは幸いだったが、まさか翠蝶徳妃まで狙われるとは。
鳴鈴は周りの空気が冷えていくような寒さを感じた。
「下手人は、相当俺を憎んでいるようだな」
地の底をえぐるような低い声で、飛龍が呟く。
「俺を狙うならともかく、鳴鈴や義母上まで傷つけるのは許せん。絶対に許さない」
血管が浮き出るくらい力を入れて握りしめる拳に気づき、鳴鈴は彼のそれをそっと両手で包む。
「そんな怖い顔をしていたら、徳妃さまが安心してお休みになれませんよ。ね、殿下」
「黙れ。まだ下手人はこの辺りにいるかもしれない。探索に行ってくる」
「殿下!」
剣をつかんで一人で駆け出しそうな飛龍を、鳴鈴は必死に止める。
飛龍はきっと、ひとりきりで敵をおびき寄せるつもりだ。そんなことはさせられない。
「その必要はないわ、飛龍。下手人はもう捕まったの」
弱弱しい翠蝶徳妃の声が、ふたりの動きを止めた。
「なんですって?」
飛龍が目を吊り上げ、横たわった義母をにらむように見下ろす。