恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
宦官に案内されたのは、皇城の北端にあり、政の中枢である大極宮の一室だった。普段多くの家臣が集まり、会議などをする部屋は暗く、がらんとしていた。
皇帝と横に座った武皇后の周りだけが特大の蝋燭で煌々と照らされている。
参上したふたりが深く頭を垂れると、皇帝が顔を上げるように命じた。
「翠蝶を見舞ってくれたようだな。彼女まで傷つけられたことは、朕としても到底許しがたい」
皇帝に花朝節のときに見せた茶目っ気のある表情はなく、今あるのは怒りそのものだった。
「同感でございます」
飛龍が頷く。
「下手人を捕えたと聞きましたが?」
「その通りだ。城内の総力を駆使し、捕えてやった。連れてこい」
皇帝が手を叩くと、飛龍たちの後ろにある扉が開き、兵士たちが縄で縛られた男を引き連れてきた。
「もしや……!」
無理やり正座させられた男の姿を見て、鳴鈴は思わず声を上げた。その男は、初めて飛龍に出会った日に鳴鈴の馬車を襲った賊の首領に似ていた。
あの時男は顔を隠していたが、着ていた胡服が全く同じだ。
「見覚えがあるのか」
皇帝に問われ、同じく男に見覚えのあった飛龍が、鳴鈴が最初に襲われたときのことを説明した。