恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
男は拷問されたらしく、全身に鞭で打たれた傷があり、顔は打撲のあとで腫れあがっていた。
傷さえなければ、二十代半ばの若い男に見える。体はたくましく、眉毛は濃く、目鼻立ちはくっきりとしていた。
「いい加減名乗れ。お前は誰だ」
皇帝が言うと、男はとうとう観念したように口を開いた。
「馬仁(バジン)」
「姓は名乗らぬか。どうして飛龍に関わる者を次々に襲った」
苛立った口調で皇帝が問うと、馬仁は口をつぐんで黙る。すると飛龍がすらりと自らの剣を抜き、馬仁の首筋にぴたりとつけた。
「洗いざらい吐け。でなければこの場でその首を斬り落としてやる」
余分なことをすれば、飛龍の手が滑って本当に馬仁を殺してしまうかもしれない。鳴鈴はじっとその場を見守っていた。
すると不意に、馬仁が笑いだした。眉根を寄せた飛龍が、彼を睨む。
「覚えていないか、星稜王。そうだよな、俺はあのときただの平兵士見習いだった。今とは比べ物にならないくらい若かった」
「なに……?」
「俺はお前のせいで滅んだ、梁家の生き残りだ!」
獣の唸り声のような叫びに、その場にいた者全員が凍り付いた。
宮廷では禁忌となって久しい梁家の名を堂々と口にした男は、不敵な笑みを浮かべた。