恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
今思えば、襲撃されたあとの馬車の中で飛龍が零した「皇族などに生まれたくなかった」という言葉や表情に、過去の悲しみが現れていたんだろう。
しかし鳴鈴は、それに気づかなかった。自責の念に押しつぶされそうになる。
「そんなことないわ。あなたが嫁いでくれてから、飛龍の表情が、とてもよくなっているもの」
「えっ?」
「飛龍は不器用だし、嫌っている者には容赦ないわ。でも、あなたのことは壊れ物のように扱っている。大事にしているのがわかるわ。本当よ」
翠蝶徳妃の言葉が鳴鈴の胸に沁みる。
「さっき飛龍があれほどまでに怒っていたのは、大事なあなたを傷つけられたからよ」
「私もそう思います」
黙っていた緑礼が後ろから口を挟んだ。
「想っていない相手を、身を挺して守ろうとはしないでしょう。殿下はお妃さまを守るため、しなくてもいい怪我をされた。しかも武将の宝である、右腕に、です」
毒入り菓子を食べた侍女が暴れたときのことを言うのだろう。鳴鈴は珍しく多弁な緑礼の顔をじっと見つめる。
「もしあのとき、出兵命令が出ていたら。殿下は出兵できず、主上に役立たずの烙印を押されていたことでしょう」
「あ……」