恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「殿下、鳴鈴です」
ひとりにしてくれと言ったのは自分だ。しかし飛龍は彼女の声を聞くと途端に気分が浮上するのを感じた。鳴鈴が自分を、暗い湖の底から引き揚げてくれるような気がする。
「入れ」
命じられるまま、すっと戸が開いた。隙間からちらりとこちらをうかがう鳴鈴に微笑み、手招きをする。
鳴鈴の顔がぱっと明るくなり、戸を閉めると小走りで近寄ってきた。
「翠蝶徳妃さまがお休みになったので、お暇してきました」
滑り込むように正面に座る鳴鈴。
「そうか。緑礼は?」
「後宮で、小鳥の世話をしてくれています」
小鳥というのは、飛龍が買ってやった鳥のことだろう。なぜこんなところにまで連れてくるのかと思ったが、口に出すのはやめた。
緑礼から、鳴鈴が侍女に悪口を言われていたのを聞いていたからだ。侍女たちが小鳥の世話をちゃんとしてくれるか不安で、連れてくるしかなかったのだろう。
「お食事、召し上がってないのですか?」
飛龍の前に置かれた手つかずの膳を見て、鳴鈴が悲しそうな顔をする。
「いや……今からだ。お前も食べるか」
「いいえ、私は……徳妃さまのところでいただいたので」
「そうか」