恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
出陣準備を終えた飛龍は、皇帝と食事の席を共にするように命じられた。出陣前の湯浴みをして、鳴鈴が待つ部屋に帰ることができたのは、日がすっかり暮れてからだった。
準備を終えたと言っても、星稜とは勝手が違う。兵士の顔も飛龍が皇城に住んでいたころとはだいぶ入れ替わってしまっているので、何の障害もないとは言い難かった。
「鳴鈴」
すっと戸を開けると、ぼんやりとした蝋燭の灯りの中で鳴鈴がうずくまっていた。
何をしているのだろうと飛龍が近づくと、彼女はなんと、下ろした黒髪を振り乱し、砥石で肉切り包丁を研いでいたのだった。
「……何をしているか、聞いてもいいか」
躊躇いがちに聞く飛龍に気づいて顔を上げた鳴鈴は、至極真面目な声音で言い放った。
「私も明日殿下についていきますので、武器が必要かと」
「は?」
「緑礼も宇春も、危ないからといって剣や弓をくれないのです。戟や戦斧は重くて持てないから、せめて包丁を」
「待て。いつ誰がお前を連れていくと言った」
飛龍が優しく鳴鈴の手から包丁を放させると、彼女は頬を膨らませた。