恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「わあっ」
のけぞった盗賊が腕を押さえてうなる。その指の間からは鮮血が滴っていた。
あ然とする盗賊たちの前に、馬車からひらりとひとりの女性が降り立つ。
「え? あれ?」
彼らは、星稜王の妃は零れるくらいの大きな瞳をした、小柄な少女だと聞いていた。
しかし今彼らの前に降り立ったのは、切れ長の目に高い鼻を持つ、美しい女性だった。まるで天女のような彼女は、不似合いな太刀を片手に持っている。
太刀は血で濡れていた。彼女が盗賊の無礼な手を斬りつけたのだ。
「替え玉か!」
斬りつけられた盗賊が唸った。
「さあ皆さん、もう遠慮は要りません。思う存分暴れるのです」
美しい女は不敵に笑い、重い髪飾りを次々に外し、盗賊目がけて投げつける。
「緑礼どのに続け!」
王府の兵士たちが剣を抜き、呆気にとられて油断していた盗賊に反撃を開始する。
人数は互角だが、鳴鈴を捕獲し監禁せよという命令を受けていた盗賊たちは一気に混乱した。
「本物はどこだ!?」
叫びながら振り下ろされた刃を太刀で受け、緑礼はそれをはじき返す。
「言うわけないだろう!」
目的を見失い、混乱する盗賊たちに焦りの色が見え始めた。