恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
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堂々と萩国に入るには、関所を通らなければならない。
けれど皇帝の使いで来たわけではない飛龍は、もちろん関所は避ける。険しく切り立った崖のある山から萩の領地に入ることにした。
国境の見張りも少ないだろうと思われる、道ならぬ道を行く。当然足元は草と木の根と石だらけだ。
側近たちが、皇城から来た兵士たちをはぐれないように励ましつつ、慎重に進む。
いつ萩軍とはちあうかもわからない緊張感の飛龍に、不意に後ろから声が投げかけられた。
「殿下、危ない!」
側近の声だ。反射的に振り向いた飛龍の鼻先を、何かがヒュッと空を切り裂いて流れていった。
「殿下!」
側近たちが振り向いた飛龍の前に出る。彼らと向かいあった兵士たちが、次々に弓を構える。
「どういうことだ。お前たち、乱心でもしたか」
これほどの人数が一度に乱心することはないだろう。飛龍はどこか冷静に、その光景を眺めていた。
「俺が死んで得する人間に、金で雇われたか」
飛龍は皮肉な笑みを浮かべた。皇室に生まれた以上、身内争いはいつまでもつきまとうらしい。