恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「おそらく皇太子か、皇后か……その辺りだろう」
皇城の兵にこれほど容易く言うことを聞かせられるのは、皇帝以外ではそれくらいしか思い浮かばない。
「俺を敵に回すか。それとも、真実を話すか」
兵士たちは答えず、弦を引き絞る。その矢が放たれる瞬間、飛龍と側近は馬を駆けさせた。
「愚か者ども!」
細い道に密集した兵士たちが一斉に矢を放つことはできない。第一陣を避けた飛龍たちは馬を反転させ、今度は逆に兵士たちの群れに突っ込んでいく。
剣を抜いた三人は、接近戦ではまったく役に立たない弓を次々に払い落とした。
「どうします、殿下」
「決まっている。清張城に戻ろう」
罠にはめられたのだと、飛龍は気づいた。萩軍が清張城に侵攻してきそうだという情報自体、嘘だろう。
(そこまで、俺が憎いか)
皇帝を欺き、五十という大人数でたった三人を確実に始末する。事が成就した暁には、それをすべて萩軍の仕業にするつもりか。
弓を捨てた兵士たちが剣を抜く。そこからは多勢に無勢の大乱闘となった。
木の幹や根に邪魔され、満足に身動きが取れない中での戦闘は、飛龍を大いに苛立たせた。